相続人が認知症の場合の遺産分割|成年後見人・利益相反・特別代理人を行政書士が解説
相続人の中に認知症などによって判断能力が十分でない方がいる場合、 通常の相続とは異なる対応が必要になることがあります。
特に問題になりやすいのが、 相続人全員で行う遺産分割協議です。
重要なのは、その相続人本人に遺産分割の内容を理解し、 自分で判断するために必要な意思能力があるかどうかです。
意思能力がない状態で行った法律行為は無効となるため、 本人の状態によっては成年後見制度等の利用を検討する必要があります。
この記事では、 相続人に認知症などで判断能力が低下した方がいる場合に、 遺産分割をどのように進めるのか、 成年後見人、利益相反、特別代理人などを中心に解説します。
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目次
- 1 相続人に認知症の方がいても相続人から外れるわけではない
- 2 認知症の相続人がいると遺産分割協議が問題になる理由
- 3 認知症なら必ず成年後見人が必要?
- 4 成年後見制度とは?
- 5 成年後見人が選任されている場合の遺産分割
- 6 本人の法定相続分を確保するのが原則
- 7 成年後見人自身も相続人の場合は「利益相反」に注意
- 8 利益相反の場合は特別代理人の選任が必要になることがある
- 9 後見監督人がいる場合は?
- 10 保佐・補助の場合はどうなる?
- 11 成年後見制度を相続のためだけに利用する場合の注意点
- 12 成年後見人は家族が選べる?
- 13 遺言書がある場合はどうなる?
- 14 相続人に認知症の方がいる場合の基本的な流れ
- 15 成年後見制度と相続でよくある質問
- 16 まとめ|本人の判断能力と利益保護を確認することが重要
- 17 関連記事
- 18 認知症の相続人がいる遺産分割でお困りの方へ
相続人に認知症の方がいても相続人から外れるわけではない
認知症などによって判断能力が低下していても、 そのことだけを理由として相続人ではなくなるわけではありません。
例えば、父が亡くなり、 相続人が母と長男・次男の3人だったとします。
母に認知症があったとしても、 母が法律上の相続人であることに変わりはありません。
遺産分割協議を行う場合には、 原則として相続人全員が参加する必要があります。
認知症の相続人がいると遺産分割協議が問題になる理由
遺産分割協議は、 単に書類へ署名・押印するだけの手続きではありません。
相続財産の内容や、 自分がどの財産をどれだけ取得するのかなどを理解したうえで、 その分け方について意思表示する法律行為です。
そのため、 本人に遺産分割について必要な意思能力がない場合には、 本人だけで有効な遺産分割協議を行うことができません。
本人の代理権を持たない家族が、 本人に代わって遺産分割協議を成立させることはできません。
認知症なら必ず成年後見人が必要?
必ずしもそうではありません。
認知症という診断名だけで、 遺産分割ができるかどうかが決まるわけではありません。
認知症の程度は人によって異なり、 本人が遺産分割の意味や財産内容を理解して 判断できる場合もあります。
一方、 本人に遺産分割について必要な意思能力がない場合には、 成年後見制度等の利用を検討することになります。
成年後見制度とは?
成年後見制度は、 認知症、知的障害、精神障害などによって 判断能力が十分でない方を法律的に支援する制度です。
法定後見制度には、 本人の判断能力の程度などに応じて、 後見・保佐・補助があります。
| 制度 | 本人の判断能力の目安 | 概要 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠く常況 | 成年後見人が本人の財産管理や法律行為を広く支援します。 |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 重要な法律行為について同意権等による支援を行います。 |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 本人の状況に応じて特定の法律行為について支援します。 |
どの類型になるかは、 本人の判断能力などを踏まえて家庭裁判所が判断します。
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相続人に認知症などで判断能力が低下した方がいる場合、 本人の状態や成年後見制度の利用状況によって 遺産分割の進め方が変わります。
「本人が遺産分割に参加できるのか分からない」
「成年後見制度が必要なのか判断できない」
「後見人自身も相続人になっている」
このような段階からご相談いただけます。
成年後見人が選任されている場合の遺産分割
すでに成年後見人が選任されている場合、 本人に代わって成年後見人が遺産分割協議に参加することがあります。
成年後見人には、 本人の財産を適切に管理し、 本人の利益を守る責任があります。
そのため、 本人に不利益となるような内容で 自由に遺産分割を成立させられるわけではありません。
本人の法定相続分を確保するのが原則
成年後見人が本人を代理して遺産分割協議を行う場合、 本人の利益を保護する観点から、 原則として本人の法定相続分を確保することが求められます。
例えば、 父が亡くなり、 相続人が母と子2人だった場合、 法定相続分は原則として次のようになります。
| 相続人 | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者 | 2分の1 |
| 子2人 | 残り2分の1を均等に分けるため、それぞれ4分の1 |
母について成年後見人が選任されている場合に、 単に「母は施設に入っているので財産はいらない」などの理由で、 母の取得分をゼロにするような遺産分割を 当然に行えるわけではありません。
成年後見人自身も相続人の場合は「利益相反」に注意
特に注意が必要なのが、 成年後見人自身も同じ相続の相続人になっている場合です。
例えば、 父が亡くなり、 母と長男が相続人で、 長男が母の成年後見人になっているケースです。
この場合、長男には、
- 自分自身の相続人としての立場
- 母の成年後見人として母の利益を守る立場
という2つの立場があります。
長男が多く取得すれば、 その分だけ母の取得財産が減る可能性があるため、 両者の利益が対立します。
これを利益相反といいます。
利益相反の場合は特別代理人の選任が必要になることがある
成年後見人と本人との間で利益相反となる行為については、 本人を保護するための手続きが必要です。
成年後見人と本人が共同相続人となり、 遺産分割協議を行う場合などには、 成年後見監督人が選任されていないときは、 家庭裁判所に 特別代理人の選任 を申し立てる必要があります。
選任された特別代理人が、 本人を代理して遺産分割協議に参加します。
成年後見人自身と本人との利益が対立する場合には、 利益相反の問題を確認する必要があります。
後見監督人がいる場合は?
成年後見監督人が選任されている場合には、 利益相反行為について、 特別代理人ではなく成年後見監督人が 本人を代表することがあります。
そのため、 すでに成年後見制度を利用している場合には、 成年後見人だけでなく、 成年後見監督人の選任状況についても確認します。
保佐・補助の場合はどうなる?
本人が保佐・補助の制度を利用している場合は、 成年後見の場合と同じように 一律に考えることはできません。
本人自身の意思能力や、 保佐人・補助人に与えられている代理権、 家庭裁判所の審判内容などを確認する必要があります。
本人が自分で遺産分割について判断できる場合には、 本人自身が協議に参加することもあります。
登記事項証明書や審判内容を確認して、 誰がどの範囲の権限を持っているかを確認することが重要です。
成年後見制度を相続のためだけに利用する場合の注意点
相続人に判断能力が十分でない方がいて、 遺産分割を進めるために 成年後見制度の利用を検討するケースがあります。
ここで重要なのは、 遺産分割が終わったからといって 成年後見が当然に終了するわけではない という点です。
成年後見制度は、 特定の遺産分割だけを目的とする制度ではなく、 本人の財産管理や生活上必要となる法律行為を 継続的に支援する制度です。
制度利用後の本人の財産管理まで含めて 検討する必要があります。
成年後見人は家族が選べる?
成年後見開始の申立てでは、 成年後見人の候補者を記載することはできます。
ただし、 候補者として家族を記載したからといって、 必ずその家族が成年後見人に選任されるわけではありません。
本人の財産状況、親族関係、 必要となる支援内容などを踏まえて、 家庭裁判所が成年後見人を選任します。
事案によっては、 弁護士・司法書士などの専門職が 成年後見人等として選任されることもあります。
遺言書がある場合はどうなる?
亡くなった方が遺言書を作成している場合には、 まず遺言書の内容を確認します。
有効な遺言によって 対象財産の承継方法が定められていれば、 その財産について相続人全員による 遺産分割協議を行わずに 手続きを進められる場合があります。
そのため、 相続人に認知症などで判断能力が低下した方がいる場合には、 まず遺言書の有無を確認することが重要です。
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相続人に認知症の方がいる場合の基本的な流れ
実際の手続きは本人の状態などによって異なりますが、 大まかには次のように確認します。
| 順番 | 確認すること |
|---|---|
| 1 | 遺言書があるか確認する |
| 2 | 戸籍を取得して相続人を確定する |
| 3 | 相続財産・債務を確認する |
| 4 | 本人の判断能力・成年後見制度等の利用状況を確認する |
| 5 | 成年後見等が必要な場合は家庭裁判所への申立てを検討する |
| 6 | 成年後見人と本人との利益相反の有無を確認する |
| 7 | 必要に応じて特別代理人等の手続きを行う |
| 8 | 本人の利益に配慮して遺産分割を進める |
成年後見制度と相続でよくある質問
Q. 相続人が認知症なら必ず成年後見人を付けなければなりませんか?
Q. 認知症の相続人を除いて遺産分割できますか?
Q. 家族が代わりに遺産分割協議書へ署名できますか?
Q. 成年後見人が本人の相続分をゼロにできますか?
Q. 成年後見人自身も相続人の場合はどうしますか?
Q. 遺産分割が終われば成年後見をやめられますか?
まとめ|本人の判断能力と利益保護を確認することが重要
相続人の中に認知症などで判断能力が低下した方がいる場合でも、 その方を除外して遺産分割を行うことはできません。
まず本人に遺産分割について必要な意思能力があるかを確認し、 必要な場合には成年後見制度等の利用を検討します。
また、 すでに成年後見人がいる場合でも、 成年後見人自身が共同相続人になっている場合には、 利益相反と特別代理人の問題が生じることがあります。
相続人・遺言書・財産内容・本人の判断能力・ 後見人の有無などを確認し、 状況に応じた方法で手続きを進めることが重要です。
関連記事
認知症の相続人がいる遺産分割でお困りの方へ
相続人に認知症などで判断能力が低下した方がいる場合には、 通常の相続手続きだけでなく、 本人の意思能力、成年後見制度、 利益相反などについても確認する必要があります。
行政書士トリキ法務事務所では、 相続関係や本人の状況を確認しながら、 必要となる手続きを整理します。
「認知症の相続人がいるが遺産分割を進められるか分からない」
「成年後見制度を利用する必要があるのか分からない」
「成年後見人自身も相続人になっている」
「相続と成年後見のどちらから確認すればよいか分からない」
このような段階からご相談いただけます。

